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宇多田ヒカルに惑わされる女

  • Umi Yamaguchi
  • 2021年11月20日
  • 読了時間: 3分

私が好きなことのひとつに、「宇多田ヒカルのインタビュー記事を読み漁る」という項目がある。その場でつらつらと述べているはずのフリースタイルな回答が、まるで小説の一節かのような重みを持っていたりするのだ。ジャパニーズR&Bの女王は果てしなく思慮深い。



そんな女王がInstagramでライブ配信を行った際、「なぜ人は別れる時に痛みを感じるのか」という質問に答えていた。その回答が秀逸だと話題になる。

言わずもがな、私もその内のちっぽけな一人で、その後数か月、この回答を頭の隅に張り付けたまま生活することになるのだった。



関係が終わる時とか、誰かと別れる時に、もし「辛いな」って感じるのなら、その心の痛みっていうのは初めから存在していて、その関係自体が痛み止めみたいな役割を果たしていたのかなって

。もう既に抱えていた辛さを紛らわせてくれていたってことなんじゃないかな。そうした支えを失う時に、痛みを感じるんだと思う。

どれほど「依存しないように」「頼りすぎないように」って考えていてもね。薬物みたいになってしまうのかもね、心の痛みが元々あったのなら。

私の経験からすると、そんな感じかな。



頭の隅にペターっと張りついてしまったその言葉。


それからというもの、無意識に一人を選ぶようになっていた。と最近やっと気が付いた。


没頭できる何かに集中することが多くなり、誰かを食事に誘うことがなくなった。やりたいことや行きたい場所へ、無理をしてでも行くようになり、タクシーではなくバスに乗ることが多くなった。


何がもどかしいのか、何が気に食わないのか。分からないままにただひたすら”持っている痛みを治癒する”方法を見つけていた。


「そうしないと、誰かと幸せにはなれないんでしょ」

たぶんその時の言い分はこう。



一人でも得られる充足感に必死にこびりついて数か月。

とある女性と知り合い、お酒を飲む機会があった。仕事をしながら子育てをするその女性は、自身が抱える生きづらさをつらつらと話してくれたのだった。世代も違うこんな若造に話してくれたことがつい嬉しくて、続けて私も話をした。


長年顔なじみである別の女性も隣で話を聞いてくれていたけれど「そんな話知らなかった」と驚いていたくらいに、私自身もまた驚いていた。


あれ?まだこんなにネガティブなままじゃない



結局、変わらなかったのだ。抱える闇は一人で消すことができなかった。

そこでふと思う。宇多田ヒカルは、元々持つ心の痛みを「消さなければ」なんて言っていただろうか。「持たないほうがいい」と言っていただろうか。そうしてやっと、私は曲がった解釈のまま突っ走っていたことに気が付く。羞恥心に押しつぶされそうになった。


でも、そんな凍てつく自己否定感を封じ込めてくれたのも宇多田ヒカルで。



私は弱い だけどそれは別に

恥ずかしいことじゃない

実際 誰しも深い闇を抱えてりゃいい

時に病んで、もがいて、叫んで叫んで

痛みの元を辿って

ー宇多田ヒカル - Show Me Love(Not a Dream)



私はきっとまたすぐ、彼女の感性に溺れ、惑わされ、過去を貪る。けれどもがく様を、それでもいいじゃない、と認めてくれるのも彼女なのだ。


どうしようもない恰好悪い自分を受け入れる手伝いをしてくれているのか、はたまた手のひらで転がされているだけなのか。


どちらにせよ、闇を持つ彼女の歌が、多くの人々の闇に居場所を与えている。私はどっぷりと、彼女の闇に依存したままなのだ。


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